02.花札トリオ








「えっと、みょうじナマエ、みょうじナマエ……」



指で視界をなぞりながら、自分の名前を小さく繰り返す。
学校の昇降口前に貼り出された組分け表は、生徒数が多いため、かなりの大きさだ。
その中の一番端の上から順番に女子名簿を隈無く睨み付けて、みょうじナマエの文字を探した。






とんっ、



「あ、」


集中し過ぎていたのか、次の列へと動かした手を、近くの生徒の肩にぶつけてしまった。
う、うわ、早々に何してんの私!
慌てて手を引っ込めて、此方を振り返るその人に小さく頭を下げた。




「ごっ、ごごごごめんなさ、」
「なんだ、ナマエじゃねーか」
「…い…?」

上から降ってきた聞き覚えのある声に、伏せていた顔を上げる。
すると、そこにはやはり見慣れた顔があって、いつもと変わらぬ気の抜けた目で私を見下ろしていた。




「シカマル!」
「よお」



男の子にしては長い黒髪をポニーテールに結わえた彼は、奈良シカマル。
彼もサクラやいの達と同じく、初等部からの友達である。
シカマルはいのの幼馴染みで、それからもう一人……、




「あれ、ナマエもいたんだ」
「あ、チョウジー!」


もう一人が、シカマルの後ろから顔を出した彼、秋道チョウジ。
三人は親同士が親友で、生まれたときからの幼馴染みらしい。
よく三家族集まっては顔付き合わせてたから、ほとんど兄弟みたいなものよ、と前にいのが言っていたのを思い出した。
まるで愚痴でも溢すかのような口調だったけど、その顔は案外嬉しそうだったっけ。
時折そんな風に話す彼女を見ては、幼馴染みっていいなあ、と思ったものだ。
私にも一応幼馴染みはいるけど、もう随分と会っていないし。
まあ、今の仲間は初等部からずっと一緒の子ばかりだから、みんな幼馴染みといえば幼馴染みなんだけどね。





「ナマエはもう、クラス見た?」
「ううん…まだ名前見付からなくて」
「オレら、また同じクラスだったぜ」
「えっ!ほんと?」


ほら、と面倒そうにシカマルが指差す先を探すと、女子の名簿にしっかりみょうじナマエと書いてあった。
……あ、サクラも一緒だ。
いのは…ううん、ないなー。別のクラスかな。
女子の名前を見ている最中、僕は別になっちゃったけどね、としゅんとするチョウジの声を聞いて、男子の方も目で探る。
その中には、確かにシカマルの名前があったけど、チョウジの名前は書いていなかった。
チョウジはいのと同じく隣のクラスらしい。残念。
けれど、シカマル達の他にも同じクラスに見知った名前を何人か見付け、少しだけほっと安心する。
エスカレーター式とはいえ外部入試があるから、入学の時って知らない人も多いんだよね。
シカマル達が同じクラスにいて良かった。






「あっ、ナマエ!こんなところにいた!」
「あらぁ?シカマルとチョウジもいたのね」
「おー」
「おはよう、サクラ、いの」


チョウジとクラスの離れた寂しさを分け合っていると、サクラといのが私を呼ぶ声がした。
あれ、そういえば、さっきまで二人とも一緒だったのに……いつの間にはぐれたんだろう。



「もう、ナマエったらまた一人で居なくなって!」
「あんた、人混みに入るとすぐ流されちゃうんだから!」
「え、ごめん…?」


……え?
あれっ、もしかして私が悪いの?







「…あんた今、私が悪いの?って思ったでしょ」
「そ、そんなことないよ!?」



さすが幼馴染み、まるっとお見通しですか!










花札トリオ


(ナマエ、今度からはちゃんと私かいのの手ぇ掴んでなさいよ!)
(えっ、は、はい…?)
(おめーら保護者かよ……)